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殺人目的で静脈内に空気を注射する行為と不能犯が問われた判例を解説



不能犯という言葉をご存じでしょうか?

 

少し前この言葉を使った映画もあり、知っている人も多いのではないでしょうか。

 

今回はそんな、不能犯かどうかが問われた判例を解説していきましょう。

 

そもそも、不能犯とは、人が犯罪を意図して実行に着手したが、実際にその行為からは犯罪行為の結果は到底不可能な場合のことをいいます。

 

簡単に例えると、呪術などで人を殺害しようとした場合がその例と言えるでしょう。

 

人を殺害しようとして、呪術を使ったが、その行為では他人を殺害することが実際には明らかに不可能であると考えられますよね。

 

そのような、犯罪をしようとした行為から、行為の結果が到底不可能な場合を不能犯と呼ばれています。

 

通常では、人を殺害しようとして行動をしたが、達成できなかった場合未遂罪となるはずですが、この不能犯は行動したとしても、結果が発生することがありえないため、未遂罪にもならないとされています。

 

それでは、実際の判例を解説していきましょう。

 

 

 

Aさんは、姪であるBさんに生命保険をかけ、事故死に見せかけて殺害し、保険金を得ようと考えていました。

 

そこで、Aさんは、CさんとDさんに、この計画を話し、共謀して、Bさんの静脈に空気を注射することで、殺害しようと計画をたてました。

 

そして、犯行当日、Aさんは、一人で草刈りをしていたBさんのもとへ、CさんとDさんを案内し、CさんがBさんに、何かしら嘘でだまして、注射をすることを承諾させました。

 

そして、DさんにBさんの両腕を持たせて、注射器でBさんの静脈内に、蒸留水5ccと一緒に、空気30ccから40ccを注射したのです。

 

しかし、蒸留水と一緒に注射した、空気が致死量にいたらなかったため、Bさんの殺害にはいたりませんでした。

 

その後、警察の捜査により、Aさんらは、殺人未遂罪として起訴されます。

 

ちなみに、致死量とされている空気の量は、70ccから300ccとされており、今回の30ccから40ccでは、到底、致死量になりません。

 

しかし、第一審では、被害者の体質、健康状態、注射方法によっては、平均致死量以下の少量であっても、死ぬことはあり得るとした鑑定書などをもとに、本件を不能犯とすることはできないとして、Aさんらの殺人未遂罪の成立を認めました。

 

そこで、弁護側は、この程度の空気量のみでは、通常、人を殺すことは不可能であるため、不能犯だとして控訴します。

 

しかし、結局第二審でも弁護側の控訴は棄却されます。

 

第二審では、第一審とは違って、少しおもいろい判決を述べています。

 

 

 

30ccから40ccの空気では人を殺せないと認めつつも、一般人は 、人の血管内に少しでも空気を注入すれば、その人は死亡するものと思われていて、今回の計画をしたAさんらもいずれも、そのように思っていた。

 

そのため、人の静脈に空気を注射することは、その量の多少にかかわらず、人を死に至らしめる、極めて危険な行為であるとするのが、社会通念上相当であったとの意見を述べて、弁護側の控訴を棄却しています。

 

弁護側は、空気量を理由に、不能犯であるとの主張を繰り返し、更に上告し、判決は最高裁に委ねられることとなりました。

 

最高裁では、第二審の見解を採用せず、第一審の見解と同様に判断しました。

 

最高裁判官は、裁判で、人体に空気を注射して、人を殺すことは、絶対に不可能であると弁護側は言っている。

 

しかし、静脈内に注射された空気の量が致死量以下であっても、注射された者の身体的条件や、その他の事情の如何によっては、死の結果発生の危険が、絶対にないとはいえないとし、弁護側の上告を棄却し、殺人未遂罪が適用されました。

 

ちなみに、他に不能犯が問われた事件では、窃盗目的で、物置内を物色したが、目的物がなかったため、窃盗にいたらなかった事件があり、その判決でも、不能犯ではなく、窃盗未遂罪が成立しています。

 

また、被害者が銃で撃たれ死亡した後に、日本刀で刺す行為をした者にも、不能犯とすることはできず、死体損壊罪ではなく、殺人未遂罪を認めた判例があります。

 

このように、不能犯とされるには、余程の、一般の人のだれが見ても、これでは犯罪行為が達成できないだろうと考えられるものでないと、認められないものですね。

 

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